重大事件から教育学習塾の誓いへ
前回のこちらの記事の続編です。
https://www.eimei-g.net/20220423-2/
塾の仲良しメンバーによる集団万引き事件が起きてしまった。
パニックになっていたお母さんの一人が
「塾の責任ですよ!どうしてくれるんですか!?」と俺に言い寄ってきた。
「塾外で起きたこととは言え、塾の仲良しメンバーが集まってやったことです。責任を強く感じております。すみませんでした。」
深く深く頭を下げた。
生徒たちの前に立ち、深呼吸をしてから俺は言った。
「俺は今日限り教師を辞める。世間に許してもらえないのなら、この塾も今日限り閉鎖する。」
これは自然に出た言葉だった。
それを聞いて、みんな呆然としていた。声を出して泣き始めた生徒もいた。
俺は本気だった。若干24歳の若造とはいえ、それくらいの覚悟で教師という責任、塾の経営の責任を背負っていたつもりだ。
すぐにコウタの母親が言った。
「先生、それは違います。先生が把握していて止めなかったのなら、そうかもしれませんが、先生の責任ではありません。」
「いいえ、把握できなかった僕の責任は重いと考えています。」
俺は後先考えずにそう言ったが、コウタの母親の言葉にはっとさせられた。
「先生、そんなことをしたら、何も罪もない他の生徒さんたちはどうなるんですか。
あと・・・こんなこと言える立場ではありませんが、先生がそういう形で責任をとるのは、罪を犯したこの子たちには抱えきれない重圧になって一生背負うことになってしまいます。当然、それくらいのことをしでかしたんですけど、、、でも、この子たちは立ち直れなくなります。
先生、塾を閉鎖するとか言わないでください。この子たちにやり直す機会をください。」
俺は何も言い返すことができなかった。確かにそうだ。
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これは実話ですが、本人が特定されないように設定をいろいろ変更しております。また脚色もしています。ということで、フィクションということにしておきます。当事者たちはすでに大人になっていますね。もしこれを読んでいたら、懐かしいなぁと、いろいろ思い出してください。笑
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コウタのお母さんの言うとおりだ。
教師を辞めたり、塾を閉鎖したりするのは、「責任を取る」と言いながら、それはただの逃げだったのかもしれない。
そういえば俺はいつも言っていた。「政治家とか会社員でも、失敗の責任をとって辞めるとか無責任だよな。それを取り返すくらい何倍も社会のために働きます!ってのが、本当の責任の取り方だよな」
自分でいつも言っていたのだが、いざ、自らが責任を取るという立場になったときには忘れてしまっていたようだ。
そのとき、俺は誓った。
塾として、至らなかったことを素直に認め、勉強面のみならず、今まで以上に子どもたちの生活面を気にかけ、子どもたちの将来への責任を果たそう。と。
「お前らは大馬鹿野郎だ。だが、やってしまったことを、今いくら責めても仕方ない。俺はまず、お前たちがどれくらい反省しているのかを知りたい。今回、刑事さんは、もう裏付け捜査は終わっていると言っていた。しかし、まだできることはあるかもしれない。」
全員が泣きながら下を向いていた。その姿だけでも、この子たちは反省をし、二度と同じことは繰り返さないだろうとわかった。
「よしわかった。もし、開き直っている奴がいたら、そんな奴のために俺は力を尽くすつもりはない。だが、お前たちは死ぬほど反省しているんだな。それなら、俺も出来る限り、お前たちが反省してやり直すための力になる。」
「まず、お店側に誠意を持って謝り、商品を弁償するなり、できることはまだまだある。まずはそれをしよう。」
ある母親が発言した。
「先生、ちょっと待って下さい。別々でもいいですか?父親にも相談して、弁護士に一度相談すると言っているんです。」
俺は「中学生の万引きだ。弁護士を通したりすると、逆におおごとになってしまうのではないか」と心配したが、そこは家庭の方針であり、俺の口を挟めるところではないので、お任せした。
後日談だが、やはり、そのあとすぐにお店に謝りに行った生徒たちは、店長さんが反省を汲みとってくれ、被害届けを出さないようにしてくださったとのことだ。
各自、保護者同伴で、万引きをしたお店に謝罪に行かせた。商品代金を弁済するのと同時に、何人かは頭を丸めて土下座までしたという。店長さんも物分りの良い方で
「この子たちは反省をしましたね。たぶん二度としないでしょう。今回は彼らの更生を信じます。お前ら、二度とすんじゃねーぞ! そこのお前は、坊主頭似合うけどな。笑」
と言ってくださったらしい。
そして被害届けを取り下げて下さった。本当に子どもたちのことを想う、立派な方だった。
(直接被害にあったお店の店長さんが、こんなにも子どもたちのことを想ってくれているのに、学校の先生ときたら、、、後ほど触れよう)
話を当日に戻す。
「まず、大事なことだから言っておく。お前たちは何を反省しているんだ? 『万引きは犯罪』だからか?『逮捕される』からか?」
全員黙っていた。
「違うんだよ。もし、『万引きは犯罪』だからしちゃいけない、『逮捕される』からしちゃいけない、と思っているならば、何も反省していない。もし、そんな程度の考えしかないのなら、また繰り返す。だってそうだろう。逮捕されないようにすれば良いということになってしまうじゃないか。
いいか。お前たちが軽く考えていた万引きだが、例えばシャーペン1本、仕入れるのに60円、売れるのは100円だ。しかも、様々な費用があって、儲けなんて1本で20円くらいだ。それを盗まれてしまったら、損害を埋めるのがどれだけ大変かわかるか?
下手すりゃお店つぶれちゃうぞ。そこで働いている人たちの生活どうするんだ?その人たちの家族はどうするんだ?生活が苦しくなるぞ。もしかしたら苦しむのが同級生の家かもしれないぞ。そこまで考えたことがあるのか?
毎日毎日一生懸命働いている人たちへの、酷い仕打ちだ。言い過ぎかもしれないが、殺人行為だ。俺はそこまでお前たちに罪の意識を持って欲しい。」
そんな話をして、とにかくお店に謝りに行かせ、その際、弁償や謝罪などの誠意をみせる。あとは各家庭に任せた。
俺は俺にできることをした。警察署に毎日のように相談に行き、被害のあったお店にも謝罪にも何度も伺った。
俺は、この事件をきっかけに「教育」の必要性を強く認識した。
家庭や学校だけで、生活態度や心の教育が十分だとはいえる状況ではない。
ならば、俺たちにできる「教育」をしよう。いや、俺たちにしかできない「教育」をしよう。
俺たちは学習塾ではあるが、ただ単に偏差値を上げて進学させれば、それで良いというような考えではなかった。
勉強「も」大事だ。しかし、それ以上に大事なことがある。勉強や受験を通して、「人間として大切なこと」を学べる学習塾、「教育学習塾」になろうと誓ったのだ。
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ごめんなさい!今回も超大作になってしまって!三部作になってしまった!今日はここまで!続きをお楽しみに!